国道49号長沢峠。
福島県の浜通り地方の中心都市=いわき市の西部に位置する峠です。
長沢峠が現在のように改築される前の国道のルートだった旧ルートの長沢峠には、誰が呼んだか「焼おにぎり」と呼ばれる国道看板が、市道に降格して約40年が経った今でも、立ち続けています。
静かな生活道路が、かつては重要な国土骨格の一部を成していたことを示す極めて貴重な「生き証人」が、そこには存在していました。
1963年、国道49号は一級国道*1へと昇格し、国土を横断する重要な幹線道路として整備が始まりました。
浜通りと中通りの間には阿武隈高地が横たわり、それを横断する49号には難所が多く、旧街道の拡幅だけではなく、ルートの変更を伴う改築を行いながら、こんにちのような道へと変貌を遂げていきました。
難所のひとつであった長沢峠区間も、1970年代頃には、三和トンネルとはじめとする新ルート開通し、旧街道の往来は国道から降格していきました。
その改築から、約40年ほどが経過した現在も、長沢峠の旧ルートには、国道の看板(通称、おにぎり)が遺っています。
一級国道に指定される若い号数の国道は、その重要性から、よく管理・整備がなされる道路です。しかしこの長沢峠旧道の「焼おにぎり」は、降格後40年も延々と旧道に残り続けています。しかも、旧道とは言え、現役で使用されている道路上に存在しています。奇跡と呼ぶべきレベルなのです。
そんな「焼おにぎり」は、長沢峠の上三坂集落側からの入口にあります。
旧長沢峠は現在、市道になっています。道路幅はセンターラインのない1~1.5車線幅程度。
県道20号との分岐の交差点すぐに近くに、そのお姿が。
これが「焼おにぎり」です。
風化し、全体的に錆びてしまっている様が「焼」の要素というわけです。
ボロボロになりながらも、この道路が重要道路であったことを物語っています。ばっちり二桁。本当に貴重です。
市道に降格して40年余、風雪に耐えながらも、凜として立つ国道看板。なんて美しいのでしょうか。
取材時は春。近くでは桜が咲いていました。これからも末永く、静かな余生を過ごして欲しいですね。
峠の頂上、そして峠の向こう側の上市萱集落にも、数年前までおにぎりが存在していましたが、2019年現在では両方ともに柱だけになってしまっており、旧道区間に残る国道看板は、焼おにぎりのみとなってしまっています。
福島県下には、こうしたマニアが歓喜する旧時代の道路遺産が、他の県と比べると結構遺されていたりします。とはいえ、徐々に現存物件は減ってきていますので、できうる限り写真に収めていきたいと思います。
取材時期:2019年4月